サイトメガロウイルスは咳やくしゃみなどの飛沫で感染するのですか?

サイトメガロウイルスは、空気感染や飛沫感染はしません。
接触(経口)感染だけです。

厳密な話をすれば、「接触(経口)感染」「飛沫感染」「空気感染(飛沫核感染)」は全く異なる3つの感染経路というよりも、連続性のあるものを大体のところで線を引いていると理解していただいてもいいかも知れません。
ただ、その線を引くことによって、感染予防策は異なってくる点で、これらの用語の使い分けに慎重になってきます。

唾液に関することだけで説明すると、3種類に分類されます。

接触(経口)感染
唾液や唾液に汚染されたものを直接または手を媒介して口に入れることで感染する。
飛沫感染
咳やくしゃみによって唾液を含んだ飛沫(しぶき)が1メートル以内の距離を飛び、その範囲にいる人がそれを吸い込んでしまうことで感染する。
飛沫(しぶき)の大きさは 5マイクロメートル以上。多くの風邪やインフルエンザはこの感染経路。
空気感染(飛沫核感染)
飛沫から水分が蒸発して5マイクロメートル未満に小さくなった軽粒子(飛沫核)は、長時間空気中に漂い、1メートル以上の距離を移動して、それを吸い込むことによって感染する。麻疹、水痘、結核はこの感染経路。

この三者を分けているのは、個々の病原体がどの環境の中であれば感染性を維持しているか(環境の中で安定しているか)です。

では、どのような感染経路があるのか、身近な感染症の例を挙げて確認していきましょう。

麻疹ウイルスの感染経路は、

  • 接触感染
  • 飛沫感染
  • 空気感染(飛沫核感染)

です。 それはこのウイルスが唾液のような体液の中だけではなく、飛沫※1でも、さらには飛沫核※2でも、どの環境でも安定しているからです。
※1 これは唾液などの体液そのものと比べると水分は抜けている状態です。微生物にとっては居心地のいいところではありません。
※2 飛沫からさらに水分が抜けている状態です。多くの病原体はこの環境では感染性を維持できません。

インフルエンザウイルスの感染経路は、
・接触感染
・飛沫感染
です。 インフルエンザウイルスは、通常は飛沫核感染はしません。
このウイルスは飛沫核の中では安定していないからです。
でも絶対に飛沫核感染が起こらないかというと、極めて低い確率ではあっても可能性ゼロという訳ではありません。

サイトメガロウイルスの 感染経路は、
接触感染 
のみです。
 唾液などの体液中であれば安定していられますが、飛沫やましてや飛沫核の中では感染性が維持できません。
飛沫の中にウイルスのDNA(遺伝情報)があるかないかを調べる検査法(PCR)を使うとごく微量のウイルスが見つかるかもしれませんが、ここで見つかったウイルスには感染する能力は失われています。
また飛沫のサイズから考えればわかることですが、ウイルス量としては微々たるものです。
しかしやはり飛沫感染の可能性が全くゼロかと言われると、あくまでも連続性の中での話しであって、非常に低いレベルとは言え、全くゼロではないと答えざるを得ません。
しかし、そんなこと言い出したら…というくらいに低いので問題視していないと言うことです。

次に、それぞれの感染経路で、どのような予防をとる必要があるかについて

接触(経口)感染予防には感染管理上、手洗いや食生活などの注意が第一です。(Q. 妊娠中に特に気を付けることはありますか?を参照)
飛沫感染予防には近距離(例えば、同じ室の中)で接する場合にマスクが必要となります。
飛沫核感染では遠いところ(例えば、病棟全体)にまで感染予防策を施すことが求められます。

つまり、「サイトメガロウイルスは飛沫感染するから注意して!」なんて、もしも言っちゃうと、唾液中にウイルスを排泄しているかも知れない子どもと接するお母さんは(また保育士さん達は)ずっとマスクを掛けていないといけなくなります。
米国CDC(疾病予防管理センター)であれどこであれ、公衆衛生の専門機関でそんなことを推奨しているところは世界中どこにもありません。

しかし、上の子供からくしゃみを浴びせられたりすれば大量の飛沫を吸い込むことになりますし、こうした感染は、ほとんど接触感染と同じ状況ですから、インフルエンザで言われるような飛沫感染と同じようには考えません。
そういったことが起きた場合は、速やかに顔を洗ってうがいもするような注意はしたいものです。

同様に、ウイルスを唾液や尿に大量に排泄しているのは、1-5歳程度の小児ですので、こうしたお子さんがたくさん集まり至近距離でつばを飛ばされるようなところでは、サイトメガロウイルス未感染の妊婦の方は、マスクをすることは決して無駄なこととは言えませんが、 大人の唾液にはサイトメガロウイルスは、ほとんど出ていませんので、「電車や会社などの一般社会でマスクを付けたりするような必要はありません」。
それに、インフルエンザや他の風邪の病原体は咳やくしゃみを起こさせますが、サイトメガロウイルスはそうしたことを起しません。

さらに、ウイルスが体内に入ったからと言って、全てのウイルスが感染するものではありません。

様々な物理的なバリアを人体は持っていますし、非特異的な免疫(自然免疫といいます)が、常に異物を排除しています。
こうした免疫機構で排除できないような大量のウイルスが体内に入り込まないように、オムツをかえた後手洗いをする、子供の食べ残しは食べないなどの方が、ほとんど問題とならないような微量の飛沫中のウイルスを気にしてマスクを着用することよりもよほど大事なことです。

※アラバマ大の血清疫学の結果や我国での疫学研究の結果(Koyano他BMJ Open 2011)などが出る前までは、産科などの先生たちの中には、このウイルスが単純ヘルペスと同じヘルペスウイルス科に属することなどから、性交感染がメインの感染ルートと習ってきた人たちもたくさんいました。
しかし、先天性サイトメガロウイルス感染が経産児(兄弟姉妹の下の子)に多いこと、先天性感染を起こしたウイルス株と同胞(兄弟姉妹の上の子)のウイルス株が一致することから、サイトメガロウイルスの感染のメインルートは、「同胞の排出物」ということが明らかになってきました。
特に、「唾液・尿に大量にウイルスが存在する」ため、こうした「体液との接触」をどのように防御するかが大事になってきます。
例えば「手洗いの励行・食べ残しなどの共有の禁止・子供への直接的口づけの禁止」などが有効です。
この有効性は、こうした行動様式(予防のための心がけ)がきちんと実施されたかを調査し、抗体の陽転を測定することにより、証明されています(Adler他 Pediatr Infect Dis J. 1996)。

感染するとどんな症状が出ますか? 

監修:長崎大学 森内浩幸

妊娠中の感染予防のための注意事項-11か条

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