妊娠中にウイルスや細菌、寄生虫などに母体が感染すると、母親からお腹の赤ちゃんにうつってしまうことがあります。
それによって、赤ちゃんが何らかの症状を持って生まれてくることがあります。
そのようなことが起きないように、妊娠中の女性は、「感染しないように予防すること」がとても大切です。
では、具体的にはどうすればよいのか、予防するために注意すべきことを、ここにまとめておきます。
▼妊娠中の感染予防のための注意事項
▼トキソプラズマから胎児を守るために、特に気を付けること
▼サイトメガロウイルスから胎児を守るために、特に気を付けること
▼その他の母子感染症
★保育士、幼稚園教諭(乳幼児と係わる職業)の方へ NEW
妊娠中の感染予防のための注意事項 – 11か条
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石鹸と流水で、しっかり手を洗ってください。
特に以下の場合は念入りに洗ってください。
・トイレを使用した後
・生肉、生卵、または洗っていない野菜や果実に触れた後
・調理や食事の用意をする前後
・ガーデニングや農作業をするなど、土に触れた後
・ペットと触れ合った後
・病気の人の近くにいた後
・手に唾液(特に乳幼児の唾液)がついたとき
・小さな子どもと遊んだり世話をした後
・おむつを替えた後
石鹸と流水が使えない時は消毒用ハンドジェルの使用をお勧めします。 -
小さな子どもとフォークやコップなどの食器を共有したり、食べ残しを食べることはやめましょう。
小さな子どもの唾液や尿にはサイトメガロウイルスが含まれている可能性があります。
健康な人には無害なウイルスですが、妊婦と胎児には影響を及ぼすことがあります。
小さな子どもと関わるときはしっかり手を洗いましょう。 -
肉は、しっかりと中心部まで加熱してください。
買ってきた調理済みの肉料理も、本当に充分な加熱調理をされているのか定かではありませんから、自分で中心部の赤みがなくなるまでしっかり加熱したもの以外は食べないでください。
加熱が不十分な肉や肉の加工品には有害な細菌や寄生虫(トキソプラズマやリステリア菌)が含まれている可能性があります。
もし混入している場合も、十分な加熱調理で殺してしまうことができます。
その他、生ハム、ローストビーフ、レアステーキ、肉のパテ(火を通していないパテ、加熱不十分なパテ)、生サラミ、生ベーコン、ユッケ、馬刺し、鳥刺し、鹿刺し、エゾシカのレアステーキ、鯨刺し、ヤギ刺し、加熱が不十分なジビエ(野生の鳥獣)料理、等も妊娠中は食べないようにしましょう。
サラダや肉や魚のパテからリステリア菌に感染した事例もあります。
基本的に、妊娠中には十分に火が通ったものを食べるように心掛けましょう。 -
殺菌されていないミルクや、それらから作られた乳製品は避けましょう。
殺菌済という確証がない限りはフェタチーズ、ブリーチーズなどの「ソフトチーズ」は食べないでください。
海外で供されるチーズではこういった種類のものが珍しくありません。
殺菌していないこれらの製品には有害な細菌や寄生虫が含まれている可能性があります。 -
汚れたネコのトイレに触れたり、掃除をするのはやめましょう。
できるだけトイレの掃除は他の人に代わってもらいましょう。
どうしても自分でやる必要がある場合は、手袋やゴーグルを着用し、作業後には必ず手を洗ってください。
また、ネコのトイレは毎日掃除して清潔を保つようにしてください。
ネコの糞にはトキソプラズマなど有害な寄生虫が含まれている可能性があります。 -
げっ歯類(ネズミの仲間たち)やそれらの排泄物(尿、糞)に触れないようにしましょう。
有害なウイルスを運ぶげっ歯類もいます。
まれにそれらがペットのモルモットやハムスターなどにも感染していることがあります。
出産まではそれらペットの世話は他の人に頼みましょう。 -
妊娠中の性行為の際には、コンドームを使いましょう。
性行為を通じて、サイトメガロウイルスや単純ヘルペスウイルスなどのウイルスやクラミジアなどに感染することがあり、これらは胎児・新生児に悪影響を及ぼす恐れがあります。
また、特別な病原体でなくても、膣内の細菌感染の刺激が早産の原因となることもあります。
これを防ぐためにもコンドームの使用が望まれます。
また、唾液を介して感染する病原体もいますのでオーラルセックスも危険です。 -
母子感染症の原因となる感染症について検査しましょう。
胎児・新生児に影響を及ぼす感染症であっても、妊婦には自覚症状が乏しい場合も少なくありません。
日本では梅毒検査、B型肝炎抗原検査、C型肝炎抗体検査、HIV抗体検査、HTLV-1抗体検査は妊婦健診の際に、ほとんどの産科施設で実施されています。
しかし、 トキソプラズマ抗体検査やサイトメガロウイルス抗体検査などは、任意であり、また検査を奨める施設も多くはありません。
自分が現在、何か感染症にかかっている可能性はないか、どういった病気にたいして免疫を持っているかを把握して、予防に役立てるためにも、検査は必要です。
トキソプラズマやサイトメガロウイルスの抗体検査も自分から医師に検査を頼むようにしましょう。 -
B群溶血性レンサ球菌の保菌者であるか検査してもらいましょう。
妊婦の10~30%が感染していると言われていますが妊婦自身には自覚症状がありません。
しかし、赤ちゃんの髄膜炎や死亡につながる感染症です。
妊娠後期で簡単な綿棒テストをすることでわかります。
保菌していることが判明すれば、分娩中に赤ちゃんを保護する方法があります。 -
感染症から自分と胎児の身を守るために、妊娠前にワクチンを打ちましょう。
ワクチンが存在する感染症(たとえば、麻疹、風疹や水痘)は、ワクチンを打つことで防げます。
自分が病気にならないため、健康を保つため、将来の自分の胎児を守るため、また周囲にいる妊婦とその胎児に感染させないためにも、ワクチンを打ちましょう。
現在妊娠している方は、出産後、なるべく早く次の妊娠までの間にワクチンを打ちましょう。 -
感染している人との接触を避けましょう。
自分が未感染であるか、ワクチンを打っていなかった場合、
水痘や風疹などに感染している人には近づかないようにしましょう。
もし接触した人がこれらの病気に罹っていることがわかったら、すぐに病院に連絡して下さい。
水痘や麻疹の場合は、すぐに免疫グロブリンの注射をすることで発症を防ぐことができるかも知れません。
以上の、注意事項をよく心得て生活することにより、あなたのお腹の赤ちゃんに害を及ぼす可能性のある感染症にかかるリスクを、大幅に減らすことができます。
自分が感染しているかどうかは、自覚症状が出ない感染症が多いため、検査しないと知ることは難しいです。
もし、不安に思うことが少しでもあれば、必ず医師に相談し、対応してください。
A5版、妊婦さん向け母子感染予防啓発のパンフレット
トキソプラズマ、サイトメガロウイルスの解説・予防法、妊娠中の感染予防のための注意事項
体験談の一部抜粋をまとめたこちらも合わせてご覧ください。
トキソプラズマから胎児を守るために、特に気を付けること
- ネコ用トイレは「毎日」掃除をする。(糞に出て来たトキソプラズマが人に感染できる状態になるまで、通常丸一日以上かかりますので、その前に処理します)
- 掃除やお世話の際、使い捨て手袋やメガネの装着をする。作業後は手洗いを励行する。
(ネコの糞に限らず、後述のとおり、糞の含まれた土から身を守るのにも、十分な手洗いが大事です) - できれば、ネコ用トイレの掃除は他の人にお願いする。
- ネコの餌として生肉をあげない(ネコ自体への感染の予防をします)
- 飼いネコは外飼いしない(主に外でネコは感染してきます)
- 妊娠中に新たにネコを飼い始めない(そのネコの感染状態がわからないので)
- ネコの糞が含まれた土からの感染を防ぐために、公園の砂場遊びやガーデニング、農作業など土をいじる作業中は手袋や眼鏡を装着すること、また作業後は十分な手洗いをすることが大事です。
- 感染を予防するには、生肉を食べないことはもちろんですが、加熱不十分な肉でも感染するリスクがありますので、肉は中心部の赤みがなくなるまでしっかり火を通してください。
トキソプラズマを含む可能性がある肉は以下の通りです。
生ハム、ローストビーフ、レアステーキ、肉のパテ(火を通していないパテ、加熱不十分なパテ)、生サラミ、生ベーコン、ユッケ、馬刺し、鳥刺し、鹿刺し、エゾシカのレアステーキ、鯨刺し、ヤギ刺し、加熱が不十分なジビエ(野生の鳥獣)料理、等 - 確実に中心部まで冷凍することも感染予防になりますが、家庭用冷蔵庫で中心部が-12度まで冷凍できるかどうかは各機種にもよると思いますので不確実です。
外食先ではそういった確実な冷凍が保証されないのでやはり、生は避けるのが望ましいです。 - 殺菌されていないミルクを飲むことは避けてください。また殺菌されていないミルクで作られた乳製品(ソフトチーズなど)も避けてください。
- トキソプラズマがついた包丁で野菜を切って生のまま食べたりしないためにも、
包丁やまな板などの調理器具は生肉用と野菜用に分けて使い、こまめに洗浄し、清潔に保つよう心がけてください。 - すべての野菜や果物は皮をしっかり洗浄してください。
- 洗浄に使用する水についても、ろ過あるいは蒸留処理された(塩素処理だけではダメです)水道水以外の、川の水や井戸水などの生水はトキソプラズマに汚染されている可能性がありますから、よく注意をしてください。
生水を何も処理しないまま飲むことは、妊婦は絶対に避けてください。
サイトメガロウイルスから胎児を守るために、特に気を付けること
- 石鹸と流水でしっかり手を洗ってください。
おむつ交換、子どもの食事、鼻水やよだれの処理、オモチャを触った後は念入りに手洗いすることを常に心がけましょう。 - 食べ物、飲み物は子どもとは別にし、同じ箸やスプーンやフォークも使わないようにしましょう。
- 子どもとキスをするときは唾液に気をつけましょう。
頬や唇へのキスは避けて、その代わりにおでこにキスをしたり抱きしめてあげてください。 - 子どもの体液やおしっこがついてしまったオモチャや家具などは、きれいに拭き取りましょう。
CMVは、界面活性剤(石鹸)、アルコールなどの有機溶媒、次亜塩素酸などに弱いので、単に水拭きではなく、こうしたものが入った消毒薬や清掃用品を使うといいでしょう。
また、乾燥にも弱いので、敷物や布団類は天日で十分に乾燥させると安心です。 - 保育所で働いている場合は、なるべく年長の子どもを担当してください。
- 妊娠中の性行為の際には、コンドームを使いましょう。性行為を通じて、サイトメガロウイルスに感染する可能性があります。
その他の母子感染症
感染経路 | 病態 | 感染時期 | 例 | |
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経胎盤 | 急性または持続性活動性感染に伴う(ウイルス・菌・原虫)血症に続く胎盤感染を経て胎児に感染 | 出生前 | 妊娠期間を通じて (特に第一三半期) |
サイトメガロウイルス ヒトパルボウイルスB19 風疹ウイルス トキソプラズマ 梅毒トレポネーマ リステリア菌 リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス |
妊娠期間を通じて (特に周産期) |
B型肝炎ウイルス C型肝炎ウイルス ヒト免疫不全ウイルス |
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急性または持続感染に伴う(ウイルス・菌・原虫)血症の時期に分娩が始まり、胎盤の損傷に続くmicrotansfusionによって胎児に感染 | 周産期 | 分娩開始後 | ||
上行性 | 持続感染又は潜伏期間からの再活性化によって産道に排泄される病原体が上行性に子宮内に侵入し胎児に感染 | 妊娠期間を通じて (特に周産期) |
サイトメガロウイルス B群溶血性レンサ球菌 ヒト免疫不全ウイルス 単純ヘルペスウイルス リステリア菌 |
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経産道 | 持続感染または潜伏感染からの再活性化によって産道に排出される病原体を経膣分娩の際に獲得 | 経膣分娩時 | ||
経膣分娩の際に母体血中の病原体が児の皮膚・粘膜を介して感染 | 経膣分娩時 | B型肝炎ウイルス C型肝炎ウイルス ヒト免疫不全ウイルス リステリア菌 |
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経母乳 | 持続感染または潜伏感染からの再活性化によって母乳に排泄される病原体を経口摂取する際に獲得 | 出生後 | 授乳時 | サイトメガロウイルス ヒト免疫不全ウイルス ヒトT細胞白血病ウイルス |
(長崎大学森内より提供)
監修:長崎大学 森内浩幸