私は2011年春に先天性トキソプラズマ症の娘を出産したことをきっかけに、この、あまりにも日本では認識されていないトキソプラズマ症という病気に関する知識を、少しずつでいいから世の中に広めていき、悲しい思いをする母子を減らしたいと考えるようになりました。
しかし、当時ただの一歯科医師、一主婦であっただけの私は無力でしたから、実際にできることと言ったら、ブログでの娘の闘病記録などを通して、細々と、情報発信することだけでした。
そんな2011年の冬のある日、娘を抱きながら私は「この子にできることは本当に何もないのか?」と悶々としながら歩いていました。
その時に、この患者会設立につながる始まりともいえる出会いがあったのです。
渡辺浩一郎衆議院議員との出会い
渡辺浩一郎元衆議院議員
地元で辻立ち演説をされていた渡辺浩一郎衆議院議員を見つけた私は、思わず、娘の病気のこと、今の日本では治療薬もないこと、妊婦健診では抗体検査も必須ではないこと、なにより妊婦たちにこれらの情報がほとんど広まっていないことなどの話をしました。
その頃、私は厚労省や区長に手紙を書いてみるものの、ことごとくお役所的にあしらわれていたので、怒りや悲しみをぶつける先がそれ以上見つからず、本当に悶々としていたので、国民の声の代弁が仕事であろう「代議士」を見つけた私は、これ幸いと、気持ちを吐き出してぶつけてしまったのです。
こんな面倒くさい聴衆はめったにいないと思いますが、議員は無視したり軽くあしらうこともなく、真摯に丁寧に話を聞いてくださいました。
そして、これがきっかけとなり議員が厚労省の方々と話す機会を作ってくださったのです。
三井記念病院の小島先生のご協力により、活動が活発に
三井記念病院 小島俊行先生
厚労省の方々との話し合いの席には、トキソプラズマ母子感染の専門家である、三井記念病院の小島先生にも同席してもらいました。(※現在は三井記念病院 非常勤医師、吉田産科婦人科医院勤務)
小島先生とは、私と娘のアビディティ検査をしていただいた以外の面識はなく、しかもその検査から一年近くたっていたというのに、私の話を電話で聞いて、快く同席を承諾してくださいました。
また、小島先生は、先生に取材しに来ていたNHKの松岡康子記者に、トキソプラズマ患者として私を紹介してくださり、それがきっかけで、2012年の5/10の「あさイチ!」という朝の情報番組や5/24の「首都圏ネットワーク」というニュースにおいて、私と娘の症例を通し、先天性トキソプラズマ症を取り上げてもらうことができました。
小児感染症学会も、感染者の増加を報告
この様なメディアの力も借りて、世間にほんの少しですがトキソプラズマという言葉を知ってもらうようになった頃、ちょうど小児感染症学会の発表でも先天性トキソプラズマ症が増えていることが取り上げられ、厚労省でもなんとなく動いてくれそうな雰囲気が出てきました。
また、渡辺議員のはからいで、非公式ではありますが、先天性トキソプラズマ症に関する厚労省の方々向けの勉強会が開催されるようにもなりました。
しかし、この会での私の立場は、あくまで一患者であり、正直言って発言力も弱く、このままでは患者たちの声を国に届けることができないという危機感がつのり、患者会という団体で声を上げていく必要性を強く感じ始めました。
世間に認知されていない他の母子感染症の存在
母子感染症の研究をされている長崎大学の森内教授と会ってお話をさせていただいた時、先生から患者会設立の必要性と、同時に患者の気持ちをまとめる難しさなどをいろいろ聞かせていただきましたが、それらの話が、行動すべきか悩んでいた私の背中を押してくれたのだと思います。
しかし、いざ患者会を作ろうとweb上で提案してみても、先天性トキソプラズマ症は軽度から重度まで症状がバラバラという特性のせいか、患者間の温度差がかなりあり、また、名乗り出て患者会に参加するメリットもないので、なかなか患者を集めることはできませんでした。
長崎大学 森内浩幸教授
そこで森内教授から「トキソプラズマ単体で攻めるより、他の対応の遅れている母子感染症と一緒に攻めていく方が、行政も動きやすいのではないか」というアドバイスをいただいていたのを思い出し、母子感染症であり、胎児に起きる障害も似ていて、妊婦健診における抗体検査も必須ではないし、ワクチンも今はないので、感染経路はだいたい判明しているものの完全に防ぎきるのは難しい、という共通点を持っている先天性サイトメガロウイルス感染症の患者さんたちと協力していくことにしました。
そしてweb上のCMV患者コミュニティの方々に声をかけ、合同の患者会を作ることを提案したところ、私と同じ気持ちでいてくれる方たちがたくさんいることがわかりました。
また、患者じゃなくても私の考えや行動に賛同して、自らボランティアを申し出てくださった方も何人もでてきてくれました。
そして、患者会を作る!と決めた5月のある日から患者会準備室はすぐにweb上に開き、翌月には会員の顔合わせをし、監修・協力してくださる大学や先生方にもどんどんコンタクトをとり…今に至ります。
本当にめまぐるしいスピードで色々なことを決めてきました。
それもすべて、「この瞬間にも、情報がなかったばかりに感染する母親がいるかもしれない!」という恐怖と焦りのせいかもしれません…
森内教授をはじめとする研究者たちの協力があるからできたこと
また、これだけのスピードで患者会設立まで持って行けたのは、たくさんの協力してくださる方々がいたからです。
この場を借りて、会員さんを含む、患者会設立に関わって協力して下さったすべての方々に深くお礼を申し上げます。
特に、以下の先生方にはお忙しい中、ホームページ作成にあたり、情報の提供や内容の監修、寄稿などを無償で請け負っていただき、本当に感謝してもしきれません。
この場を借りて深くお礼申し上げます。
≫ 患者会にご協力いただいている医療・研究機関(敬称略・五十音順)
- 国立感染症研究所 ウイルス第1部 第4室
- 井上直樹先生
- 三井記念病院 産婦人科 部長/筑波大学 医学専門学群 臨床教授/東京大学 医学部 非常勤講師
- 小島俊行先生
- 国立感染症研究所 寄生動物部 第1室 室長/筑波大学 生命環境系 准教授
- 永宗喜三郎先生
- 長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 新興感染症病態制御学系専攻 感染免疫学講座 感染病態制御学分野 教授/長崎大学病院 小児科 診療科長
- 森内浩幸先生
- 神戸大学大学院 医学研究科 産婦人科学分野 教授
- 山田秀人先生
- 大阪大学 微生物研究所 感染病態分野 准教授
- 山本雅裕先生
トーチの会の名称
現時点では、当患者会はトキソプラズマとCMVの二つの感染症を対象としていますが、気持ちとしては、TORCH症候群すべての母子感染に対する世間の認識が上がり、 知識を持つことで予防や早期発見・早期治療ができるようになり、悲しむ母子が一組でも減るように願っています。
また、「Torch」とは英語で「たいまつ」「光」という意味です。
私達は、世の中の妊婦や妊娠を望む全ての女性達に無知を照らす光『Torch』を投げかけ、私達は啓蒙家『Torchbearer』として十分な活動をし、希望の光『Torch』を見つけていきたい、と考え、この患者会の愛称を「トーチの会」とすることに決めました。
まだ産声を上げたばかりで右も左もわからない赤子のような患者会ですが、これからも、ぜひ皆さんのお力をお借りして、大きく育てていけたらなと思っています。
全ては、母子の明るい未来のために。
一人でも多くの母子を守るために。
宜しくお願い致します。
2012年9月1日
先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症患者会
「トーチの会」 代表 渡邊 智美
妊娠中の感染予防のための注意事項-11か条
11か条をかわいいイラスト付きでプリントサイズにまとめました。 トキソプラズマやサイトメガロウイルスの予防だけでなく、妊娠中の様々な感染症からの予防について書かれています。妊娠中の方も、周りに妊婦さんがいる方も、知っていただきたい内容です。\ NEW / 印刷して見える所に貼ろう! 11か条イラスト版PDF