母子感染する病原体は数多く、感染経路も感染時期も様々で、同じ病原体であっても複数の感染経路で異なった時期に感染する場合があります。感染が児に及ぼす影響も様々で、胎内で発症するものから生後数十年経って発症するものまであるし、発症率も低いものからほぼ必発のものまであります。臨床像も急性障害から恒久的障害まで及びます(表1)。
時に与える影響 | 代表的な病原体 |
---|---|
胎内感染が胎児に急性の疾患を引き起こす | ヒトパルボウイルスB19 |
胎内感染が生後長期に及ぶ臓器障害・神経障害をきたす (出生時から顕性~遅発性発症) |
古典的TORCH(トキソプラズマ、梅毒、風疹、CMVなど) |
周産期感染が多くの新生児に急性・亜急性の疾患を引き起こす | HSV、GBS、クラミジア |
原則的には周産期感染は不顕性に児をキャリア化させるだけだが、一部の新生児(主に未熟児)に急性・亜急性の疾患を引き起こす | CMV |
新生児期には明らかな障害を認めないが、数か月~数年の潜伏期を経て多くの感染者が発症する | HIV |
原則的には垂直感染は強い病原性を示すことは無いが、数十年もの経過で一部の感染者に発症する | HBV、HTLV |
この中で特に、経胎盤感染によって児に重篤な臓器・神経・感覚器障害をきたす病原体の頭文字を取って名付けたものを、TORCH症候群と称します。
TはToxoplasma gondii(トキソプラズマ原虫)、Oはothers(その他)ということで梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)などを含み、RはRubella virus(風疹ウイルス)、CはCytomegalovirus(サイトメガロウイルス [CMV])、そしてHはHerpes simplex virus(単純ヘルペスウイルス [HSV])を示します。
当患者会はこのTORCH症候群のうち、トキソプラズマとサイトメガロウイルス(CMV)による先天性感染症をターゲットとしています。
この二つの感染症は、TORCH症候群の中で日本においての頻度は高く、 先天性CMV感染は毎年およそ1000人の障害(続発症)の原因となり、 トキソプラズマも数百人が先天的に感染して生まれていると言われています。
この二つは共通する点がいくつかあります。
まずは、どちらも今はまだワクチンはなく、気を付けていても完全に予防するのは難しいという点です。 また、どちらも感染時の母体の症状が少ないので、児に症状があらわれていなければ、非常に見つけにくい病気です。 妊婦健診において早期発見のために抗体検査をルーチーンにしている施設は、どちらもかなり少ないのが現状です。
他にも症状など、以下のような共通点もあります(表2)。 (母子感染症の代表的な梅毒と風疹も参考に掲載しておきます。)
表2. 先天性感染の症状・徴候および検査所見 | |||||
---|---|---|---|---|---|
先天感染病原体 | トキソプラズマ | 梅毒トレポネーマ | 風疹ウイルス | CMV | |
共通する 症状・徴候 |
中枢神経系 | 小頭症、水頭症、脳内石灰化 | |||
中枢神経系外 | 流死産、胎内死亡、子宮内胎児発育遅延、肺炎、肝脾腫、紫斑、黄疸 | ||||
比較的特徴的な 症状・徴候 |
中枢神経系 | – | 髄膜炎 | – | – |
眼 | 網脈絡膜炎、小眼球症 | – | 白内障、小眼球症、網脈絡膜炎、緑内障 | 網脈絡膜炎 | |
耳 | – | – | 感音性難聴 | 感音性難聴 | |
鼻 | – | カタル性鼻炎 | – | – | |
心臓・大血管 | – | – | 動脈管開存症、肺動脈狭窄症、肺高血圧症、等 | – | |
骨格系 | – | 骨軟骨炎 | 骨軟骨炎 | – | |
皮膚 | – | 天疱瘡 、 parrot裂溝、爪床炎 | – | – | |
共通する遅発性症状・徴候 | 精神運動発達遅滞、脳性麻痺、てんかん、自閉症 | ||||
比較的特徴的な 遅発性症状・徴候 |
視覚障害 | Hutchinson歯、実質性角膜炎、感音性難聴、鞍鼻、ゴム腫、Parrot仮性麻痺 | 難聴、視覚障害、糖尿病、甲状腺異常、思春期早発症、慢性進行性脳炎 | 難聴、視覚障害 | |
共通してみられる検査所見 | Total IgMの上昇、血球減少(特に血小板)、肝機能異常 | ||||
確定診断法 | 新生児末梢血白血球、髄液または羊水からT.gondiiDNAを検出(PCR) | 胎盤、臍帯、剖検組織等から梅毒トレポネーマを検出(暗視野鏡検又は直接蛍光抗体法) | 児の咽頭拭い液、尿、血液等からの風疹ウイルスDNAの検出(PCR) | 生後3週間以内の尿、唾液、血液からCMV分離またはDNA検出(PCR)(注1) | |
血清診断法(注2) | T.gondii特異IgM又はIgAの検出、又は生後12ヵ月以上T.gondii特異IgGが持続陽性 | 母子共に非トレポネーマ試験(STS)とトレポネーマ試験(TPHA)の両方で陽性:児のTPHA-IgM陽性 | 風疹特異IgMの検出、又は生後12ヵ月以上風疹特異IgGが持続陽性 | CMV特異IgMの検出 |
注1. 生後3週を超えてしまった場合には、先天代謝異常スクリーニング用濾紙血検体または保存臍帯を検体として用いる。
注2.血清診断は時に偽陰性や偽陽性となることがあり、確定的ではない。(出典)森内浩幸. TORCH症候群. 内科 106巻6号増大号・特集「知っておきたい内科症候群」
監修:長崎大学 森内浩幸
妊娠中の感染予防のための注意事項-11か条
11か条をかわいいイラスト付きでプリントサイズにまとめました。 トキソプラズマやサイトメガロウイルスの予防だけでなく、妊娠中の様々な感染症からの予防について書かれています。妊娠中の方も、周りに妊婦さんがいる方も、知っていただきたい内容です。\ NEW / 印刷して見える所に貼ろう! 11か条イラスト版PDF